ささちゃんくらい

ただの屑籠

接触(眠剤バージョン)

砂を吐いた。とめどなく流れる。自分の体内に吸収されて無意味なものだけ出てくるような感覚。乗り物酔いで三半規管からむしばまれるような感覚。

 

「せんせー!みつるくんが気持ち悪いって。前に座らせてあげてくださいー!」学級委員の小山さんが伸び伸びとした声で叫ぶ。眼鏡の奥からの凛とした視線が刺さる。

「みつるくん、まだはきそうにない?」

僕はこみあげてくる嫌な空気を飲み込んで一回うなずいた。

「もうすぐサービスエリアつくからね。それまで遠くの景色みるんだよ。」

「みつるくん、背中さすってあげるからね。」

小山さんの手の温かさで嫌な空気はスッと蒸発した。

「ありがとう。」

 

中学に入ってから小山さんと同じクラスになって付き合い始めた。

「小学校の頃からみつるくんのこと好きだったんだよ。なんか宮下とか寺田とかうるさい男子にはない感じが好きだったんだよね。独特の雰囲気。」

「独特の雰囲気って何?僕は周りの子と変わらないよ。」

「いやなんか大人っぽいっていうかまとう空気?オーラみたいなのが、さ。」

「なにそれ。」

 

毒を持った蛇が体を這うような感覚に襲われた夏。

「そういえば充は高校どこ受けんの。」

「んー。俺の偏差値でも行けるとこかな。」

「そ。私本命青葉高校だけど下げる気ないからね?」

「どういうこと?おれの頭が悪いってこと?」

「え?まあ実際そうじゃん。前のW模試偏差値30でしょ?行けて商業か工業あたりでしょ。あ、あそこの工業とか名前書けば受かるらしいじゃん。」

「一緒の高校行く気ないけど、そういう風に見下されてたんだ。」

「え?いや事実を言ってるだけじゃん。なんでそんなに卑屈になるの?」

「美咲俺のこと好きじゃないの?」

「え、いや好きだけど。」

「じゃあ行動で示せ。」

「は?いきなり何。充なんか変だよ。」

「前から思ってたけどお前プライド高いくせに行動ともなってないんだよ。知ってるか?クラスの女子ほとんどから嫌われてるんだよ。人望ないくせに内申のために学級委員やって、勝手に張り切って、クラスのみんな、みんなお前のこと嫌ってるんだよ。から回ってるんだよお前。醜いな。」

美咲は泣き出した。ハダカデバネズミのようだった。いとおしくて抱きしめた。

「言い過ぎた。」

「なんかわけわかんない。私バカみたい。」

「土下座しろ。」

美咲は気が動転して急に服をすべて脱ぎだした。

「大好きです。充。私はあなたのことを愛しています。」

美咲は土下座したまま全裸で部屋中を動き回った。狂ったアイロボットのように。

「充?私のこと好き?」

「明日学校でもそれやってくれたら好きになる。」

「充?チューして。」

「なんで?」

全裸のアイロボットになった美咲はとても滑稽で、笑いをこらえるのに必死だった。

「お前、つまんないよ。世界一つまんない。もっと俺をわくわくさせるようなことしてよ。平々凡々なそこらへんの有象無象の残りカス同士がくっついただけの奴らにはわかんないようなさ、もっと楽しいことしようよ。」

「楽しいことって何?」

「もっとさ、受験とかそういう小さい世界ばかばかしいんだよ。お前のその後頭部ぺちゃんこの造形の悪い頭改造してもっといい世界作ろうよ。いい国作ろう鎌倉幕府ってい箱なんだよな。」

「充?頭大丈夫?なんか変なものでも飲んだ?」

「お前に言われたくねえよ、全裸女。」

「朝焼けが見事だから神社にでも行こう。」

「お母さんに連絡した?」

「うん、もともと彼氏の家泊まるって言ってある。」

「お母さん中学生で外泊許すのかよ。」

「神社いって学校行こう。受験とか全部ぶっ飛ばして一緒に工業行って土木事務所入って結婚しよう。」

「俺美咲とは結婚したくないな。」

 

美咲は入院することになった。