ささちゃんくらい

ただの屑籠

接触

遺書を書こうと思った。今までの妬みつらみ恨みだがよくわかんないけどむかつく気持ち全部手紙にしたためてぶつけてやろうって思った。むかつくむかつくむかつく!そう思いながら書いた自分の気持ちは思ったより浅くてこんな薄っぺらい人間じゃないって信じているからその手紙を信じないことにした。

ある朝目覚めたら横に女の子がいた。20歳前後の大学生くらいの。とても美しいというわけではないけれど、クラスで2番目くらいにかわいい感じの女の子。細くて華奢で白い身体はとても魅力的だが、プリン髪と剥げているネイルがアンバランス。力を入れすぎていないというか、なんというか。リアルさがあって現実にいる女の子なんだなって感じがする。

 

「というか誰?」

「ん」

 

「なんで俺の部屋にいるの?」

「ん」

 

女の子は俺に背を向けて目を開けようとしない。服は着ているから大丈夫そうではあるものの知らない女の子と同じベッドで寝ているというのがやばい。未成年だったら完全に犯罪になるよな。

 

女の子の二の腕をつかむ。

「ん。きらい。」

女の子は振りほどくような動作をした。

「起きて。あなたは誰ですか?」

「ロク君、店長会の資料チェックした?」

「光山さん!お疲れ様です。えっと。」

「資料今あさってる時点で確認してないってわかるよ。日程希望のメール出してないのロク君だけなんだよね~。困るよ~。そういうの。」

「あ、えっと。すぐ出します。すみません。」

「すぐ出すのは当たり前だよね、遅れてるんだから。いい加減にしてよ。この前も受け持ち店舗の部門別売上提出だいぶ遅れてたしさ。」

「あっ。すみません。本当に。」

「頼むよ本当にさ。店長テストに推薦した私の面子がさあ。わかるでしょ?ロク君に期待してるんだから本当に。これ以上失望させないでよ。なんというかさ。他店の店長も言ってたよ。ロク君若くして店長まで上り詰めたんだから尊敬してるって。」

「ああ、ありがとうございます。」

「ありがとうございますってさ。まあいいけど頼むよ~本当に。」

「はい。光山さんわざわざ足運んでもらってすみません。」

「うんまあそれは全然いいわけさ~。今度は飲み断らないでよ?彼女いないんでしょ?」

「ああこの前は都合つかなくてすみません。」

「今日とかどうよ?」

「あ、えっと今日はそうですね、予定は、ない、ですね、はい、…。」

「じゃあ今日予約取っとくからよろしく!」

っウ。ッオエ。ウォエエエ。ッオエエエエエエエエ。

食べて吐く。高校卒業後今のスーパーにバイトとして入って店長になった今に至るまで。一日一回過食しては嘔吐する。具合が悪いから吐くのではない。自分で嘔吐中枢を刺激してわざと吐く。痩せ願望のある若い女性に過食症や拒食症が多いらしく、テレビやSNSでもがりがりに細くなった女の子ばっかりクローズアップされる。

俺はそこにいない。

胃が背中までくるほど腹部が膨満する度、醜い自分に嫌気がさして、泣きながら三本の指を喉奥に入れる。それが苦しくって苦しくってなんで食べすぎたんだろうって後悔しながら嘔吐中枢が刺激されてやがて嘔気がくる。吐くのが怖い。吐くのは日常ではないから。でも何年も続けるうちに慣れてしまって最近は腹にうまく力を入れることで苦しまずに吐けるようになった。その楽さを知ってしまうと甘んじてどんどんやめられない。沼にはまっていく。今この姿を見た人の中で何人かは食べ物が無駄だなんて言うだろう。うるさいんだよ。スーパーやコンビニなどで大量に廃棄される食品を目の当たりにして口から出したって肛門から出したって一度取り込んだことに変わりないじゃないかなんて。そういったら今度はお前の体が心配だって偽善者ぶった言葉を身勝手にぶつけられるんだろうな。過食嘔吐が生きがいになってしまっている俺を否定することで俺の中にある小さい俺はどんどん削られていくというのに。

唾液腺が腫れてとても醜い。吐きだこはだいぶ目立たなくなってきたもののやっぱり顔が丸くて情けないや。

 

「食べるために吐くのか。吐くために食べているのか意味わかんなくなってきた。」

「忘れたの?昨日あなたが誘拐したんだよ?」